補助人工心臓治療
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インペラ部会

IMPELLA補助下での施設間患者搬送に関する情報公開

IMPELLA補助下での施設間患者搬送に関して、インペラ部会に情報提供がありましたので報告します。

症例1

搬送区間千葉県から千葉県
搬送方法高規格救急車
搬送理由VAD/心移植を含む高度心不全治療を行うため
患者および家族への
インフォームド・コンセント(要約)
PCPS/IABPなどの左室補助デバイス留置下での搬送を行う際と同様に行った。
搬送後の転帰搬送後4日目にVAD植込み、IMPELLA抜去

症例2

搬送区間富山県から東京都
搬送方法民間救急車
搬送理由植込型LVADへブリッジのため
(植込型LVAD実施認定施設への搬送)
患者および家族への
インフォームド・コンセント(要約)
このデバイス(IMPELLA)で血行動態を安定させて移植適応をとり、このまま退院可能な植込型LVADを植込む手術を行う選択肢がある。当院では植込型LVADの装着手術ができないため、認定施設に搬送して手術を行っている。

米国ではIMPELLAサポート下での搬送実績は多く、具体的にはヘリ搬送が多いが、今回は乗換を要さずdoor to doorでいける民間救急車で搬送を考えている(乗換が少ない方がIMPELLAカテが動くリスクが少なく、搬送時間が長くかかっても安全と考える)。搬送途中でのIMPELLAの位置移動に注意し、エコーも携帯する。しかしながら、もし道中急なポンプ停止やカテーテルの予期せぬ異常で血行動態が不安定となった場合は、途中で自動車道をおりてしかるべき病院へ搬送し、PCPS/IABP補助を行う場合もある。血行動態の保持と救命を優先し、その後IMPELLAを再挿入するかどうかは搬送先がIMPELLA認定施設でない場合もあるし、central ECMOへconversionしてから搬送する可能性もある。搬送先の病院とも連絡をとって状況により決める。
搬送後の転帰搬送翌日に植込型VAD手術施行してIMPELLA抜去。

症例3

搬送区間京都府から大阪府
搬送方法自治体救急車
搬送理由体外式LVADへブリッジのため
患者および家族への
インフォームド・コンセント(要約)
IMPELLA 2.5+VA-ECMOで管理続けているが、脈圧も出ず、カテコラミン依存も極めて強く、また出血傾向なども出現し、LVADへの移行が必要。一旦はIMPELLA 5.0に当院で入れ替えてしばらく加療も可能であるが、同日中の転院も可能。(以上を搬送先施設の医師と共に説明行った結果、ご家族が転院を希望された。)
搬送後の転帰搬送後同日にIMPELLA 5.0へ入れ替え。翌週に体外式LVAD植込み手術を施行。

症例4

搬送区間熊本県から福岡県
搬送方法Mobile CCU
搬送理由左冠動脈主幹部病変による急性心筋梗塞、心肺停止の治療。体外式人工心肺装置、IMPELLA 5.0でのsupportを継続するも出血、溶血、右上肢・左右下肢指の虚血性変化、腎機能低下等臓器循環不全を来すようになったこと、左室収縮低下が続いていることからLVAD等さらなる補助循環でのsupportを要すると判断し、搬送先へ転院することとなった。
患者および家族への
インフォームド・コンセント(要約)
IMPELLA 5.0でのsupportを継続するも出血、溶血、右上肢・左右下肢指の虚血性変化、腎機能低下等臓器循環不全を来すようになったこと、左室収縮低下が続いていることからLVAD等さらなる補助循環治療の選択肢のある病院で治療をしましょう。
搬送後の転帰報告時現在、搬送先で治療中

症例5

搬送区間京都府から大阪府
搬送方法自治体救急車
搬送理由感冒症状があり、その後近医受診され、心筋炎と診断。 血圧下降あり、ドブタミン・ミルリノンにて加療されていたが、状態の改善に乏しく当院に紹介。 当院受診時、レベル清明, 血圧:70~90mmHg, 心拍数:130bpm-, 起坐呼吸あり。心エコーでは、壁運動は著明に低下し、EF=20%台であった。心不全、心原性ショック、MOFの状態であり、IMPELLA 2.5導入。(BSAよりIMPELLA 2.5で対応可能) カテコラミン full supportでも血圧は80-90mmHgと低値で、尿量も乏しく、採血ではMOFの悪化を認めた。そのため、VADを含めた集学的加療目的で搬送先へ搬送とした。
患者および家族への
インフォームド・コンセント(要約)
急性心筋炎を発症し、IMPELLA及びECMO導入も、循環動態の改善に乏しく、多臓器障害の悪化を認めているため、VADを含めた集学的加療が必要である。ご家族の理解は良好。(本人は気管挿管、鎮静管理中のため、IC施行不可)
搬送後の転帰搬送後に、central ECMO導入し、循環動態維持をされている。

症例6

搬送区間宮崎県から福岡県
搬送方法Mobile CCU
搬送理由LVAD・心移植の可能性があり、当院での対応が不可能と判断したため。
患者および家族への
インフォームド・コンセント(要約)
重症の劇症型心筋炎で、IMPELLA 2.5+VA-ECMOでのサポートをしているが、心機能の改善に乏しい。このままでは救命することが難しいので、LVADへの移行や心移植という選択肢も視野に、搬送先への転院をお勧めした。以上のご説明は、転院先の医師にも同席頂いた上で、ICを行い、ご家族の同意が得られ、転院の運びとなった。
搬送後の転帰転院6日後に、IMPELLA及びVA-ECMO抜去。その後の経過は良好であり、当院へ再転院となりました。

症例7

搬送区間岡山県から大阪府
搬送方法救急車(搬送元所有)
搬送理由VAD/心移植を含む高度心不全治療を行うため。
患者および家族への
インフォームド・コンセント(要約)
劇症型心筋炎に対しECMOとIMPELLA 2.5を用いて心不全管理を行っているが、自己の心機能の回復は乏しい。心機能の予後は不良であることを合わせると、今後は心移植を見据える必要があり、植え込み型VAD、IMPELLAのgrade upやcentral ECMO等の方法を考慮しないといけないため、移植可能施設へ治療を引き継ぐことが適切と判断した。
搬送後の転帰搬送当日にIMPELLA 5.0へ入れ替え。今後、離脱か植え込みVADの選択を経過をみながら判断するとのこと。

症例8

搬送区間千葉県から千葉県
搬送方法高規格救急車
搬送理由VAD/心移植を含む、高度心不全治療を要する病態のため
患者および家族への
インフォームド・コンセント(要約)
VAD/心移植を含む、高度心不全治療を要する病態のため、PCPS/IABPなどの左室補助デバイス留置下での搬送を行う際と同様
搬送後の転帰搬送後に菌血症が判明したため、同日にIMPELLA抜去しIABPを再挿入

症例9

搬送区間東京都から東京都
搬送方法東京消防庁特殊救急車
搬送理由高度僧帽弁閉鎖不全症によるうっ血性心不全に対してIMPELLA 5.0留置後の患者に対し、心不全加療に難渋し僧帽弁への介入が必要であり、IMPELLA 5.0留置下で実施施設にて経皮的僧帽弁形成術を施行するため。
患者および家族への
インフォームド・コンセント(要約)
うっ血性心不全を伴う高度僧帽弁閉鎖不全症に対してIMPELLA 5.0を留置し心不全治療を行っているが、僧帽弁への治療介入が必要であるため実施施設への転院が必要である。転院時点でIMPELLA 5.0を離脱することは血行動態から困難であり、留置下での転院搬送となる旨を御本人に御説明させて頂き、十分に御納得頂き承諾して頂いた。
搬送後の転帰3日後搬送先より再転院。心不全改善しIMPELLA 5.0は抜去、引き続き薬物治療を継続中

症例10

搬送区間愛知県から大阪府
搬送方法ドクターカー
搬送理由心肺停止
患者および家族への
インフォームド・コンセント(要約)
(もともと心移植について話はしており、心肺停止で当院搬送される翌日に、専門施設の移植担当医の診察を受ける日程を相談する予定であった。)
拡張相肥大型心筋症による慢性心不全にて治療中であったが、循環停止となり、PCPS、IMPELLA2.5を挿入した。左室機能は高度に低下しており、補助循環の離脱の見込みはかなり低い。そのため移植認定施設にてVAD・心移植を検討していくことが望ましいと思われる。
搬送後の転帰搬送先入院中

症例11

搬送区間神奈川県から東京都
搬送方法ドクターカー(搬送元所有)
搬送理由IMPELLAからVADへの移行のため
患者および家族への
インフォームド・コンセント(要約)
PCPS、IMPELLAの補助を行っている。心筋炎からの心機能の回復が緩徐であり、さらなる循環補助のためVADを行い、経過によっては心臓移植が検討される。このため、VAD,心臓移植の経験豊富な搬送先への転院を要する
搬送後の転帰不明 (腸管壊死を発症してしまったためBest supportive careの方針となったとお聞きしておりますが、最終的な転帰は不明です)

症例12

搬送区間熊本県から福岡県
搬送方法自治体の防災ヘリ
搬送理由VAD/心移植を含む心不全治療を行うため
患者および家族への
インフォームド・コンセント(要約)
急性心筋梗塞、陳旧性心筋梗塞に対して、IMPELLA 2.5+VA-ECMOでサポートをしているが、心機能の改善に乏しい。そのため、central ECMOやVADへの移行、長期的には移植も考慮される。更にLADの血行再建についても冠動脈バイパス術といった外科的介入も考慮される。これらからは、上記のいずれも対応可能である施設での加療継続が望ましい。ご家族の同意が得られ、転院となった。
搬送後の転帰当日にcentral ECMOへの移行、CABG。

症例13

搬送区間岩手県から岩手県
搬送方法自治体救急車
搬送理由拡張型心筋症で他院通院中の患者が心不全急性増悪し、強心薬に反応せず多臓器不全となり、当院に転院搬送となった。血管径の問題で右大腿動脈からIMPELLA CPを挿入し、多臓器不全から改善を図った。臓器不全は改善傾向ではあるものの正常にまで至らず、IMPELLAの離脱は不可能であり、さらなる流量補助が必要で体外式LVADが妥当と判断した。当院はVAD施設ではなく、IMPELLA導入に際し近隣のVAD施設と協力体制を敷くことで許可を得ており、今後は植込型VADや心移植を考慮すべく、協力体制のあるVAD施設への転院とした。
患者および家族への
インフォームド・コンセント(要約)
IMPELLAの離脱は困難であり、最終的に植込型人工心臓や心臓移植を考慮すべくVAD施設に転院しましょう。
搬送後の転帰転院同日に体外式LVAD導入し、IMPELLAの抜去を行った。VAD施設はIMPELLAの認可がないため、当院医師が手術に立ち会い、IMPELLAの抜去まで管理を継続した。記載現在、経過良好である。

症例14

搬送区間千葉県から千葉県
搬送方法救急車
搬送理由劇症型心筋炎でECMO、IMPELLAサポート下で加療中であったが、肝臓・腎臓などの臓器障害が徐々にみられ体外循環の短期間での離脱が困難であったことと、VADや心移植などの適応も考えられたため搬送した。
患者および家族への
インフォームド・コンセント(要約)
当院、および搬送受け入れ先の医師から本人と家族へ説明し、ご同意頂いた。
搬送後の転帰心機能は徐々に改善し、その後ECMO離脱、5日後にインペラを離脱となった。

いずれの症例も搬送中の状態は安定しており、無事に移動できたとの報告を受けております。しかし、IMPELLA補助下での搬送の安全性については充分な検証がなされておらず推奨はされていません。

やむをえず移動しなければならない場合には、移動中の一定時間は充分なモニタリングができなくなりますので、慎重な血行動態等の観察を行ってください。また、制御装置の固定に関して、移動中に過度の振動がかからないように、緩衝剤を使用するなどの処置を行ってください。

移動に伴ってIMPELLAの位置がずれてしまう可能性があるため、できれば携帯心エコーを持参して異常が疑われる場合にはすぐに心エコー検査を行ってください。

移動終了後、レジストリの入力に関しては搬送先施設と連携の上で搬送元施設が継続して行ってください。

参考文献:

First Experience of Transfer with Impella 5.0 Over the Long Distance in Japan
Hori M, Nakamura M, Nakagaito M, Kinugawa K
Int Heart J. 2019; 60(5):1219-1221.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31484873